「お年寄りや妊娠中の方、小さなお子さんに席をおゆずりください」というアナウンスが、BTSの電車内で流れるようになったらしい。
ということをタイ人スタッフに聞いた。
こんなことをわざわざ言わなければいけなくなってしまったなんて。
そう言って彼女は嘆いていました。
わざわざ言わなくたって、当たり前のことでしょう?
らしい、と書いたのは私は聞いたことがないからです。朝はバス通勤だし、帰りはBTSだけど多分流れていないし。ぼーっとしてるから聞こえないだけかもしれないですが。
そう言われてみるとBTSって企業のCMばかりでそんなアナウンスなかったな、と今更ながら思いました。
こんなことをわざわざ言わなければいけなくなってしまったなんて、と嘆く彼女自身、足がなくてやむなくラッシュ時のBTSに11ヵ月の息子を抱いて乗った時、子供が人ごみに驚いて泣いているのに誰にも席を譲ってくれなかったという経験が一度だけある。
子供がかわいそうだった、と、その時の話を多分もう20回くらい聞かされた。
込み合っている電車だとたしかに座っている人からは子供は見えないかもしれないけど、泣いていたらきっと声は聞こえるし、譲ることは不可能ではないと思う。
彼女にとっては相当ショックだったようです。
バンコクがこんなに都会になる前は、みんなもっとナムジャイ(思いやり)があったのに。今はみんなケータイばかり見てるし他人をそんなに気にしていない。自分が良ければいいという人が増えた気がする、と彼女は言っていました。
都会になる、ということは、そういうことなのかもしれないなぁ。
それでも、私はタイに来てから数えきれないほど子供に席を譲ってもらいました。
チビを連れてBTSに乗った瞬間、5人ぐらい一斉に立ってくれたことがあって、はわわわどこに座ったらってなったこともあります。
お年寄りが乗ってくればみんなで連携して席まで誘導します。
それをごく自然にやってのける姿に、羨ましさと、少し嫉妬もしました。
いいなぁ、って。
それが当たり前の世界で、うちの子自身も電車やバスに乗ったら席を譲ってもらえるものと思っている節がありますが、やっぱり混んでいると難しいかな。泣いたりはしないので、見えなければそれは仕方ないなぁと思うし。
私はといえば高校生だった頃、電車の席に座っていたら着物を着たおばあさんが近くに立ったので、席を譲ろうとして「結構です!」ときつめに断られたことがあります。
年寄り扱いするなとでも言うような、ひどく不機嫌な顔で言われて、申し訳なさと気恥ずかしさでなんとも言えない気持ちになりました。
それ以来、特に高齢の女性に対して席を譲ることを躊躇するようになってしまった私。
明らかに80歳を超えているような、歩くのもおぼつかないといったような人でないとなかなか声がかけられない。
あの人はいくつくらいだろう。失礼にならないだろうか怒られないだろうか、とつまらないことを考えてるうちに声をかけるタイミングを失って、席を立っただけで全然関係ない健康そうな人に席を取られる形になったり。
本当情けない。
タイ人の多くは、おじいさんおばあさんとまでいかずとも少し年配であれば席を譲る。
若い男性であれば私に席を譲ってくれることもあります。
より体力のある人が、自分より弱い人に席を譲る。
そんな中で生活するようになってやっと、やっと私も自然に席を譲れるようになりました。50代くらいの人にでも。
それがとても嬉しくて、タイに来て良かったなぁって思ったりして。
そんなの日本でだってしろよって言われたらそれまでなんだけど。
彼女の愚痴を聞きながら、
「日本よりましだよ。私妊婦の時、座ってる人の前に立ったら、その人さっきまで起きてたのに寝たもの。」と自虐ネタでちょっと笑いを取りましたが、本当に言いたかったのは
「日本みたいにならないで欲しい。シアダーイ(もったいない)。」
ってこと。
シアダーイ?とちょっときょとんとしていた彼女は
「日本に行ったことがないから日本人がどんななのか知らないけど、私の知ってる日本人はみんないい人だよ!ナムジャイがあるよ!」と言ってくれました。
バンコクはどんどん都会になって、日本みたいだなと思うことも多々あって、ちょっと心配になります。
タイらしいあったかさは、ずっと失わないで欲しいな。
私も、ナムジャイは忘れないようにしたいです。
おしまーい☆
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