アオティーサバーイジャイ生活@タイ

เอาที่สบายใจ(アオティーサバーイジャイ) どうぞお好きなように~ Amazingなタイランドでの日々。

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出国間際にやらかした2019年大晦日の夜

「彼のパスポートだけ入国スタンプが無いよ。」

と、タイ航空の手荷物カウンターに鎮座する恰幅の良い職員が言う。

手に持った次男の真新しいパスポートの全ページをくまなくチェックする彼。

「あ、それは更新したばかりのパスポートだから」と答えながら、思った。

…ダメじゃない?

入国スタンプが無いのは、ダメじゃない?

「古いパスポートは持ってきてないの?」と怪訝そうに尋ねる彼。

うん、要らないと思ったから「持ってきてないです。。」うなだれる私。

入国日も古いパスポート番号もイミグレーションカードに書いてあるけど、うん、でもスタンプがないとね、というやり取りもした。そうですよね。

 

カウンターに設置されている受話器を取り、どこかの誰かに事情を説明し始める彼を横目にスマホで時間を確認する。ちょうど21時になったところだった。

乗るはずの飛行機が飛び立つ時間は23:59。タクシーに飛び乗って古いパスポートを取りに帰宅し、往復一時間かそこらで戻ってこられるだろうか。ギリギリ行けなくもない気はする。

用済みだと引き出しにしまったパスポートを取りに帰るシミュレーションをしながら、目の前にいるやさしそうな彼が受話器の向こうのどこかの誰かに話をつけてくれて「大丈夫だよ」と笑ってくれないだろうかなんて淡い期待を性懲りもなくした。

 

受話器を置く彼に「古いのは絶対にないとダメ?パスポートを取りに戻った方がいい?」と尋ねると、彼は「ต.มドーモー(イミグレーション)へ行ってみて。」と言った。

「君の荷物はぼくのうしろに置いておくから。ドーモーを通過できたら電話して。そしたらこれを機内に積み込むから。積み込んでからダメだとなったら大変だし。」

やっぱりダメかもしれないのか。そして試しにイミグレの出国審査に行く、ということは、取りに戻る時間はほぼ無くなるということだ。イチかバチかの賭けになる。

踏み切れずにいると、彼は続けた。

「入国のデータはドーモーにあるはずだし。きっと問題ないと思うよ。」

 

タイ航空の男性職員の言葉に背中を押されるようにイミグレーションへと向かう。

航空会社の人と電話番号の交換をするのもなんだかタイだなぁなんて思いながら。

「ドーモーを通過できたら電話するのを忘れないでね!」と念を押されながら。

 

◇ ◇ ◇

 

手荷物検査を終え、出国審査の列に並びながら、少し迷って何も言わずにパスポートを出してみることにした。何も言われないといいなぁ…無理かな。

そんな淡い期待はもちろん秒で打ち砕かれたけれど。

カウンターに座る女性職員も「入国スタンプが無いじゃない。」と言った。

そりゃ言いますよね。言いますよ。無いんだもの。あなたの目が節穴な訳ない。

「古いパスポートを忘れてしまって…でもあのここにデータがあるはずだから大丈夫じゃないかって航空会社の人が「データはあるけど証拠(スタンプ)が無いじゃない。どうするの。」

本当ですよね。言葉もない。どうしましょう。

どうしたらいいですかね取りに戻らないといけないですかねと必殺懇願モードを発動してみたけれど女性職員は一向に大丈夫よなんて言ってくれない。

私のせいでどん詰まった列を見て不審に思ったのかひとりの男性職員が近づいてきた。

やわらかい感じのする男性だった。

経験上イミグレの職員は高圧的な人が多くて苦手なのだが、彼はなんとなく親しみを持てる頼りにならなそうな線の細いおっちゃんであった。

女性職員がかくかくしかじかでと説明をすると、彼はとりあえずこっちで対応するよと言った。これ以上出国カウンターを滞らせる訳にはいかないという判断だろう。厄介な外国人から解放されて嬉しそうな女性職員からバトンタッチという形で、出国審査のカウンターを抜けた目の前にあるイミグレーションオフィスのカウンターに連れて行かれた。

 

手荷物検査の列に並んでいるあたりからおしっこがしたいと半べそだった次男をトイレに連れていっていいかと聞くと快諾してくれ、パスポートを預けたまま一旦トイレへ走る。

無事に漏らさず用を足し、元の場所に戻るとおっちゃんは消えていた。

カウンターに座っていた別の男性に尋ねるとオフィスの中に呼びに行ってくれたけど、出てきたのは初登場の女性職員だった。

 

彼女に事情を再度説明すると、誰か家にいないのかその人が古いパスポートを持ってきてくれないのかと聞かれる。タイ航空のカウンターでも同じことを聞かれた。ふたりとも家に旦那がいるだろうと思ったらしかった。

誰もいないので戻るなら自分で戻らなければいけないと伝えた。時刻は22時に差し掛かっていた。一時間もロスしてしまった。飛行機は23:59分発でも、23:19には搭乗ゲートにいなければいけない旨がチケットに記載されている。


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ああ、あの時すぐに自宅に戻っていたら。

わずかな光を取りこぼしてしまったような、絶望的な気持ちになった。

もしかしたら間に合っていたかもしれないのに。

 

子どもたちだって、5年ぶりに会う母だってきっととても楽しみにしてくれているのに。私も家族に会いたいのに。全部台無しにしてしまうかもしれない。

私は本当にどうしてこうなんだろう。

 

イチかバチか、無理を承知で自宅に戻るしかないと思ったその時、目の前にいる女性職員は予想もしなかったことを口にする。

「タイ語わかる?」

「わかります!!!!(前のめりで)」

「いい?今から一階のソーノーに行って、古いパスポートの紛失届を出してきて。探したけど見つからないって言うのよ。」

สน.ソーノー。警察署に、紛失届を…??????

「あの、紛失したって言うんですか?家に忘れたじゃなくて…」

「それしか方法がないわ。もう一時間くらいしかないもの、今から家に取りに戻ったら飛行機に乗れない。それじゃ損害が大きいでしょ。私もそんなことをしたくないの。いい?失くしたって言いなさい。今ここでよ。空港で。持ってきたんだけど失くしちゃって見つからないって言いなさい。」

彼女は続ける。

「見ててあげるから子供はここに置いていきなさい。お母さんひとりで走って行ってきて。その方が早いでしょ。」

そう言って、彼女は次男のイミグレーションカードの裏に警察官へ宛てて古いパスポート番号を書いてくれて、次男のパスポートにチケットと一緒に挟み、それから私のチケットだけを添えて私へと差し出した。

「お母さんのパスポートはここで預かってなきゃいけないから、これだけ持って行って。途中まで連れて行くから。」

「一階の、ずーっとあっちの方にソーノーがあるからな。」

先ほど消えた頼りなさそうなおっちゃんもいつの間にか横にいて、私が向かうべき方向を指さして教えてくれた。

 

「連れていってくるわね。」と彼に言い残し、カウンターにいた別の女性に「お母さんが席を外すからあの子どもたちを見ててね。」と言い伝え、先導して出国審査のカウンターを逆に抜けていく彼女を小走りで追う。

空いているファーストクラスの出国審査を抜け、乗客に逆らって手荷物検査場を抜け、要所要所で「いい?この人がまた戻ってくるから入れてあげてね。」と職員に声をかけてくれた。

手荷物検査場を抜けたところで「同じところから戻ってくるのよ。」と言われて、私はひとりで走り出した。

 

驚いている暇はなかった。本当は心底驚いていたんだけど。

まさかイミグレの職員がこんなにしてくれるなんて思ってもみなかったし、警察に嘘の届け出を提案されるなんて、こんな形で希望を与えられるなんて1ミリも想像できなかった。

いつもイミグレ大っ嫌いとか言ってごめんなさいもう言いませんと思った。

階下に行くエレベーターの場所を人に聞き、一階の、おっちゃんの言っていた方向に向かったけど突き当ってしまってまた人に聞き、ツーリストポリスを教えてもらってしまったけどそこでまた聞いて目的地は建物の外にあることを教えてもらう。

言われたとおりに3と書かれた出口を出て右折し、少し走ると警察署が見えた。

 

◇ ◇ ◇

 

ドアを開けるとガラーンとしていて、インフォーメーションらしきカウンターにひとり、メインカウンターにひとりだけそれぞれ男性の職員がいた。

警察の制服を着たメインカウンターの人に駆け寄って立ったまま事情を説明すると、まぁまぁいいから座りなさいと両の手を開いて「落ち着け」のボディランゲージつきで言われる。

 

彼もやわらかい感じのする人でなんだかほっとした。高圧的なタイプじゃなくてよかった。

椅子にちょっとだけ腰かけ乗り出すようにしてまた息子の古いパスポートを失くしてしまったと伝えながら新しいパスポートとチケットを彼に渡すと、彼はそれを見ながらパソコンに何やら打ち込み始めた。

これでどうにかなるんだろうか。「失くしたと言いなさい。」としか指示されていないので何がどうなるかわからなかった。

走ったからなのか緊張からか鼓動が早い。

息を整えていると電話が鳴った。タイ航空のカウンターの男性職員からの、確認の電話だった。

「どう?通れた?」と聞くので、「まだです。えーと今ちょうど手続きをしていて、多分もう少しで終わると思うんだけど…。」と答える。「荷物はぼくのところにあるからね。終わったら電話を忘れないでね。」と念を押されて電話を切った。

何かを入力しながら若い警察官が「タイに住んで長いの?ずいぶんタイ語が喋れるね。」と話しかけてきたので、極力フレンドリーに答えた。好印象を与えようという下心。媚びてなんとかなるものならなんとかしたい。

「あなたのパスポートも。」と手を出され、イミグレで預からないといけないと言われて持って来ていないと告げると写真でもいいよと言われた。本当、スマホで撮って保存しておくものだなと思った。私えらい。(全然えらくない)

「パスポートはいつ失くしたの?」と聞かれて、微妙な気持ちになりつつも言われたとおりに今日空港で失くしたと答えた。

 

少しすると彼は一枚の書類をプリントアウトしサインして私へ差し出した。

「ここにサインして。あ、その前に名前のスペルを確認してね。これで合ってる?自分のと子供の名前もね。」

二度ずつスペルを確認してサインをした。届け出を受理したという書類だろう。そうか、これがあればいいんだ、とその時初めて気がついた。全然頭が回っていなかった。(いつもです)

これできっと、なんとかなる…!

警察官のサインが入った書類を見て心底安堵した。泣きそうになりながらありがとうございますと何度かお礼を言って駆け出した私に、彼が背後から声をかける。

Happy new year!

泣くかと思った。

 

◇ ◇ ◇

 

来た通りに走って戻った。途中で人とぶつかりそうになってしまったので小走りにした。

あれほど間違えないように確認したのに出てきた場所がわからなくなって、間違えてエコノミーの手荷物検査場に行ってしまって戻ってキョロキョロしていたら、私を覚えていた職員がこっちだよって笑って教えてくれた。

靴だけ脱いで手ぶらで手荷物検査のゲートを抜けチェックを受けて、ファーストクラスの出国審査のカウンターのおっさんには忘れられていたので事情を説明し通してもらった。

無事に元のイミグレオフィスの前に戻ると、次男は与えられたお菓子を頬張り、長男はソファに寝そべってゲームしていたのでちゃんと座りなさいと注意した。家かよ。

 

カウンターには私を助けてくれた女性職員の姿はなく、頼りなさそうなおっちゃんがいたのでおっちゃんに書類を渡す。

パスポートと書類を見比べて「ん?」という顔をするおっちゃん。

「これ、パスポート番号間違ってないか?」

と書類に書かれた番号を指さした。

 

名前のスペルを確認してとは言われたけどパスポート番号は確認しなかった。というか、タイ数字だったので見逃していた。

タイ数字は普段使わないのでちょっと苦手。唸りながら確認すると、おっちゃんの言うとおり違っていた。失くした(体の)パスポート番号を書くところに新しいパスポート番号が書かれていた。

嘘でしょ。みたいな。

さっきの感動を返して欲しいと思ってしまった。半べそで「もう一回行かないとダメですよね…」と聞いたら、オーイと呆れた笑顔で首を振りながら、おっちゃんが修正してくれた。

あ、いいんだ。

 

手元の見えないカウンターの向こうでおっちゃんが何やらチェックしたり書いたりするのをソワソワしながら待ち、言われるがままに家族ひとりずつ写真を撮って、私は指紋も取って。

チケットを挟んだ三冊のパスポートを受け取る。

「終わったんですか…?」と聞いたら、おっちゃんが終わったよと言ってくれた。パスポートを開いたら、12月31日付の出国スタンプが押されていた。

時計を見たら23時になるところだった。

急いでタイ航空の男性職員に電話をかけた。

 

◇ ◇ ◇

 

出発までどこで時間潰そうかな~なんて呑気丸出しの2時間前の私をぶん殴りたいな。という気持ちと、心底嬉しい気持ちと安堵。それからタイ航空の職員、イミグレの職員と警察官への感謝。

空港のどこかレストランでごはん食べようねって言ってたのに出発ゲート前で買ったハンバーガーをベンチで食べる羽目になってしまった子どもたちへの申し訳ない気持ち。

色んな感情がごちゃ混ぜの忘れられない一日になった。あんなに飛行機に乗れるのが嬉しかったことはない。

飛行機が飛び立つ前にいつの間にか年が明けていたので、子どもたちに「Happy new year」と言った。

神経が高ぶっていたせいか疲れていたのにほとんど眠れず、さらに気持ちよく寝れない次男が何度も泣くのでウトウトしては起こされ、気が付いたら窓の外がとても綺麗な朝焼けだった。

こんなに綺麗な初日の出を見るのもはじめてだった。

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2020年の目標は「やらかさない」にしようと思いました。

パソコンをタクシーに忘れた時も思った気がするので不安しかないですけどね。

人に助けられて生きすぎ。。

 

 

あとがき

長々と読んでいただきありがとうございました。少しでも楽しんでもらえたり、注意喚起になっていたら幸いです。

お前に注意喚起されてもなーですよねハイわかってます。

こんな私ですが今年もよろしくお願いいたします。お願いしますよォォ(懇願)

 

おこめ。 

 

 

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